好きなアイドルを応援することに全力を注いでいた主人公・あかりだったが、ある日その推しがファンを殴って炎上した。真実は公表されないまま、推しの後ろには女性の影があり、それを知ってもなお推しを推し続ける。
社会に適応することに苦しんでいるあかりが、推しの向こう側に求めたものとは・・・。
21歳という若さであり、題材もアイドルに心酔する女性という現代的なものを書かれているのですが「闇」の部分をしっかり書いてあるあたりは、さすが芥川賞受賞作だなと感じました。読了後の不快感がないのも、SNSによって不平不満が見えるようになり、ある意味で不平不満を見ることに慣れてしまった時代に影響されているのかもしれません。SNSのない時代なら普段見えない部分だったのだろうと思いますね。
推しの最終公演であるツアーファイナル東京公演後のあかりの心境で、「海水をたたえた洞窟に、ぼおと音が鳴り響くような君の悪さが体のなかをただよっていて、それが空腹を通り過ぎたあとにも似た絵図くような痛みになって意をつつき回した。」とあります。
本来、不気味や不快感の時には鳥肌や吐き気が出てくると思うのですが、体内に留まるというのはそれ以上の苦しみでしょうね。
「推しを推すことはわたしの業であるはずだった。」というのは無償の愛であり、歪んだ愛なのだと思います。
学校などの社会に適応できず、一方で歪んだ愛を自覚しつつももがき苦しむあかりの葛藤に、現代社会の混沌とした闇が重なった気がしました。