人が人生にはぐれた時に現れる「鎌倉うずまき案内所」
古ぼけた時計屋の地下にあるその中には双子のおじいさんとアンモナイトが待っている。「はぐれましたか」と尋ねるおじいさんに話を聞いてもらうことで、はぐれた人生に再び戻ることができる。
会社を辞めたい20代の男子から古書店を引き継いで生活する店主まで6人の悩みが渦のようにめぐる。それぞれが気づいたことの先にあったものとは・・・。
平成の時代を6年ごとに遡りながら綴った短編小説なのですが、それぞれがリンクしているのであまり短編という感じもしないですね。
好きな話は主婦向け雑誌「ミモザ」の担当になったものの、別の雑誌「DAP」の担当がやりたかったために不満がつのる男子・早坂を描いた「蚊取り線香の巻」。
上司の折江さんが言った言葉が、重く感じさせないのにいい言葉でした。
「億単位で金を転がす起業家や法律を牛耳っている政治家だけじゃない、主婦だって時代を動かす絶大な力を持ってる。ミモザはそれに一役かってるって、俺は自負しているよ。」
こういう風にどういう仕事でも自信をもって話せる部分を見つけられる視点は大事ですね。
「ト音記号の巻」で乃木君が言った「今はまだ・・・映画館もないこの田舎町で、園森さんと一緒に高校生になりたかったよ」といった台詞も、甘酸っぱくて良かったです。人生はうずまきのようにぐるぐる回っているように見えますが、実はそれはらせん階段のように少しずつ上に向かっているのだと思います。下に下がることはないと思って上を向いて過ごそうと思えましたね。
読了したら間違いなく後ろから読んでみたくなる構成も凄いなと感じました。