一人娘の結婚が近づく中、広告代理店の営業部長である佐伯は物忘れに悩まされていた。
妻の枝実子と一緒に訪れた病院で診断されたのは「若年性アルツハイマー」。仕事では重要案件、プライベートでは娘の結婚と、自分の周りが慌ただしくなるのに比例するように、記憶がどんどんと失われていく。
たくさんの思い出や出会った人たちの顔まで奪っていく病魔の中、佐伯が見たものとは・・・。
荻原さんの作品はどれも読みやすく書かれているのですが、本作もアルツハイマーの症状について平易な言葉で表されていてイメージがしやすかったです。それと同時に味覚が変わるなどの知らない症状もあったので少し緊張感を持ちながら読みました。
駅から自宅までの地図が必要であるとか、3日連続で妻の土産におまんじゅうと買うなど、大変な病気だと改めて思いました。
さらに物語が進むにつれて、漢字が減りひらがなが多くなっていくというテクニック面も付けられていました。
アルツハイマーの人と接する人間の心理も上手く書かれていて、佐伯と話す局長の口調を「踏み絵を踏ませるような口調だった」という表現しており、怖さを感じましたね。
最後が少し無理やりに持って行ったようにも感じましたが総じていい作品だと思います。
「私が失った記憶は、私と同じ日々を過ごしてきた人たちの中に残っている。」
この言葉が一番印象的だったです。