どちらかと言えば、つぶあん派です。

はじめまして、よっさんと申します。1982年、広島県生まれ。「あひるの空」とゆずの「夏色」とチキン南蛮を愛する一児の父。瀬戸内を盛り上げるために日々奮闘するも、泳げないのがタマニキズです。

『誰がための刃/知念実希人』

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末期癌に侵された若手外科医の岬雄貴は、病魔に苦しみ、自暴自棄から体を鍛えて不良を襲撃した。その際に連続殺人鬼のジャックと接触することにより、ジャックの殺人の片棒を担ぐことになる。しかし、偶然助けた少女の沙耶と接することで人を殺すことに葛藤し始める。沙耶と生活するうちに閉ざしていた心を開いた雄貴は、死期が迫る中で彼女を守ることを決断した。

知念さんの作品は何本か読んでいるので初めてではないのですが、その中でもこの作品はデビュー作とのことでした。デビュー作で600P近いボリュームと知念さんの作品の特色でもある医療の知識を交えた本作品は本当に読みごたえがありましたね。
タイトルのとおり刃物が殺人で使われるのですが、その描写が生々しくて読むたびにそのシーンが頭の中に浮かんできました・・・。

殺人以外のシーンでは自分の誕生日で自分に対してハッピーバースディを歌い、ケーキのろうそくを火を消した沙耶の描写がいいですね。

"歌が終わる。沙耶は口をすぼめると勢いよく息を吹いた。オレンジ色の宝石は飛び散って消えていく。"

また、ジャックを表すのに、"拳銃を使うつもりはなかった。拳銃などでは、あの感覚が得られない。"や、殺した相手返り血を舐めた時に"鉄臭い不愉快な味が口に広がるが、その味が濃厚な赤ワインのように芳醇に感じられた。"というシーンは見事にジャックという殺人鬼を表現していてゾクッとしました。

他にも脇役の描写もしっかり書かれていて、登場人物が多いわりに混乱することはありませんでしたね。


特にエピローグで書かれた記者の宇佐見の心境が良かったです。

"ただこう思ったのだ。ジャーナリストの特権として、世界で自分だけしか知らない真実があってもいいのではないかと。"


ボリュームはありますが、読了後の満足感もあって印象に残る作品でした。時々読んでいた知念さんの作品ですが、この作品を読んだことでもっと他の作品も読んでみたくなりましたね!!