先天的な障がいがある千絵はいろいろなことへの興味から、紙をオレンジ色に染めたり、プールで泳いだり、そしてリングに上がって現役プロレスラーと試合もすることになった。特別ルールではあったものの、勝利した千絵だったがその後も障がいは進み、そして・・・。
障がいがある人とその人を支える人、障がいと一緒に生きる人たちが一緒に見た景色とは・・・。
いくら医学が進んで治る病気も増え、いくらメディアが進んで障がいに対する知らなかった情報も目に触れる機会が増えたとは言え、まだまだ本当の意味で理解するには難しいテーマだと思っています。
自分自身もこれまで重度の障がいを持った方に出会ったことがないので、おそらく今出会ったとしても無力で何もできないのではないかと思います。
それでも知識がない自分にとってこの作品から学ぶものは多く、特別支援学校を始めとする小学校の教師を経験した著者だからこそ書ける、血の通った作品でしたね。
万引きを強要されたゆり子がそのことを母親に話したときに言葉を話すことができない母親の目から涙が流れたシーンが辛かったです。障がいのある人も無い人も、言葉のない悲しみの涙を見るのは本当に辛いです。流す方がもっとつらいのは百も承知ですが。
ただし、障がいを持ったゆり子と結婚して息子を授かった千尋が胸に刻んだ「他人からどう思われても僕らは関係ない。人にあれこれ言われて気持ちが揺らぐような生き方はしてこなかった」という言葉が圧巻でしたね。
笑って泣ける傑作小説と帯にありましたが、心境的に笑うまではいきませんでした。
ただし、読了後に沈み込むことはなかったですし、自分も文字通り「疾走する」ような人生を送らないといけないと思いましたね。