どちらかと言えば、つぶあん派です。

はじめまして、よっさんと申します。1982年、広島県生まれ。「あひるの空」とゆずの「夏色」とチキン南蛮を愛する一児の父。瀬戸内を盛り上げるために日々奮闘するも、泳げないのがタマニキズです。

『夢は捨てたと言わないで/安藤祐介』

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元甲子園球児で地元の声援も受けながらプロ野球選手になるも、1軍登板が無いまま戦力外通告を受けた樫村栄治が選んだ次の舞台はスーパーだった。食品の他に衣料品なども販売する総合スーパーで樫村に与えられたミッションはスーパー内のフリースペース「アキチーナ」を中心にネタを披露する、正規雇用お笑い芸人の「お笑い実業団」マネジメントだった。
ひと癖もふた癖もある芸人たちを統括しながら悪戦苦闘する毎日。
やがて嫌々になっていたこの業務の本当の意味を知り始め、それぞれのドラマが漫才の頂上決戦であるオモワングランプリを軸に進み始める。

お笑いがなくても人は生活していけるし、世の中は回る。でも芸人がいない世界より、芸人がいる世界の方がずっと楽しい。


自分がお笑い好きというベースはあるものの、本当に面白い小説でした。
まず、漫才を文字で起こすと間合いやテンポの表現が難しいのでどうしても面白くなくなってしまうのですが、安藤さんの漫才はそんなことはなく本当にプロの作家の仕事を見せてもらいました。
また個性が強い登場人物ばかりなのに、それぞれがそれぞれを打ち消し合うこともなく、飲み込むこともなく、それぞれのドラマを確立しているあたりは圧巻でしたね。売れない苦悩、急に売れてしまった戸惑い、過去に売れた自分と現在の売れない自分との葛藤など、お笑いの奥深さが全て網羅されていたように思えます。

そして、完全懲悪あり、恋愛ありと盛沢山なのに途中でページをめくる手が緩むこともなく、一気に読了しました。

いやー面白かったです。タイトルもビートたけしさんの楽曲「浅草キッド」から引用しているあたり、すべてにおいて完璧なお笑い青春小説でした。