どちらかと言えば、つぶあん派です。

はじめまして、よっさんと申します。1982年、広島県生まれ。「あひるの空」とゆずの「夏色」とチキン南蛮を愛する一児の父。瀬戸内を盛り上げるために日々奮闘するも、泳げないのがタマニキズです。

『銀花の蔵/遠田潤子』

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大阪万博に沸く日本。絵描きの父が由緒ある醤油蔵の跡取りになることになり、妻と娘の銀花は、大阪から奈良県橿原市に移り住むことになった。そ醤油蔵を継ぐ気はまったくない父と盗癖のある母親、厳しい父の母・多鶴子に父の妹だが銀花と1歳しか違わない桜子。銀花の周りで次々と苦難が起こるに振り回されながらも一生懸命に生きる銀花が見たものは・・・。大人になって得た家族の姿とは・・・。

今年に入って読んだ小説の中で一番かもしれなきくらい面白かったです。朝の連続テレビ小説を見ているような展開の速さなのですが、それでも描写が丁寧に描かれていたので置いてけぼりにはなりませんでしたね。

父が描いた蛍の浴衣の銀花の絵に対して、剛が「よかったな。」とぶっきらぼうに一言だけ言ったシーンがあるのですが、そんなふたりが結婚のために橿原神宮に参るシーンの結びの言葉が良かったです。

"銀花はまだ自分が二十四年しか生きていないことに気付き、すこし驚いた。"

また、常に銀花に厳しかった多鶴子が病床で言った「あんたの人生は本物や。」というシーンや娘の結婚式で留袖を着た時に、結婚式を挙げなかった心境の描写など、銀花が歳を重ねるごとに繊細に表現していて人物描写に厚みがありましたね。

"あのとき、たとえ二人きりだったとしても自分たちも式を挙げればよかった。歳を取るということは、こんな些細な後悔を積み重ねていくことだ。"

登場人物が多いですが個々人のエピソードを丁寧に描かれてあり、また竹林を初めとする風景描写もイメージができるので、総じて映像として作品が頭の中で再生されました。

いやはや、面白い作品でした。