ある日、塩によって街が滅び、人が滅び出した。
塩化した人は塩の塊になり、ひとたび触れるとサラサラと崩れてしまう。厄介なのはその奇病が感染するということ。崩壊同然の社会で生活する秋葉と真奈は、様々な人と出会い、別れていった。
しかし、ある日二人の前に現れた男がこう言った。
「世界とか、救ってみたくない?」
塩に閉ざされた街とふたりの運命は・・・。
設定はSFなのですがあまりそこに焦点を当て過ぎずに、どちらかというと人間模様について丁寧に書かれていたように思います。阪急電車や県庁おもてなし課とは違った世界観で、改めて著者の引き出しが多いなぁという印象を持ちましたね。
中身はシリアスなのですが要所要所に少し砕けた会話が入っているのでテンポよく読めました。
例えば風呂上りには牛乳しか飲まない秋葉に対して、自分の父親もそうだから父と話が合うかもと言った真奈への秋葉の返答が面白かったです。
「牛乳で合ってどうするんだよ。やっぱり瓶が王道ですね、いやいやテトラも捨て難いとか?わけ分かんねえし、それ」
真奈にチョッカイをだしたノブオに対して秋葉がジェラシーを持ったシーンや、入江が好きだった女性の写真を車の窓から破り捨てたシーンなど、不器用な男たちの恋愛模様も良かったですね。
塩害自体にはそこまで注視させずに、あくまで情景描写として最後まで書き通したところは読了直後に少しモヤっとしましたが、時間を置いて考えるとむしろこの終わり方が良かったなと思います。