救急隊員、女性刑事、消防士、更生保護施設従業員など、これまでは小説にあまり馴染みのなかった者の物語。ミステリーと人間模様を掛け合わせたそれぞれの話には、主人公それぞれの葛藤があった。
個人的にはどの話ももう少し厚めでもよかったと思います。短すぎて少し物足りない感じですね。一番好みなのは著書のタイトルにもなっている「傍聞き」。娘の不可解な行動に悩む女性刑事の話ですが、娘が何故その行動をしていたかが最後に描かれています。そのシーンに心が温かくなりましたね。
また、消防士の話を書いた「899」で書かれていた消防士の心理描写も良かったですね。
"惚れている女性の家に入り、いつもの冷静さを失った。煙の匂いよりも、初美の生活臭に注意を奪われ、消防士としての勘が狂った。"
ほかの職業も同じだと思いますが、死に直面する職業の緊張感の張りつめ度合いがわかった気がします。