どちらかと言えば、つぶあん派です。

はじめまして、よっさんと申します。1982年、広島県生まれ。「あひるの空」とゆずの「夏色」とチキン南蛮を愛する一児の父。瀬戸内を盛り上げるために日々奮闘するも、泳げないのがタマニキズです。

『羊と鋼の森/宮下奈都』

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高校生の外村が担任の窪田に頼まれて案内したのはピアノの調律師の板鳥だった。その仕草に見せられ、選んだのは調律の道に踏み込むことだった。
高校卒業後、専門が公を経て板鳥と同じ江藤楽器に就職した外村は柳や秋野といった腕のいい先輩に出逢い、また調律に出向いた先で双子の高校生・和音と由仁に出逢うことで、調律師としての階段を上り始めた。

恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」を読んだ時も感じたのですが、音楽を題材にした小説はよっぽど表現力が上手くないと読者を引き込むことができないと思いますが、そういった意味でこの作品は素晴らしかったです。
調律という曲を奏でるのとは違った視点でピアノの音を表現していて、かつそれが綺麗なんですよね。最初から最後まで清らかな内容でした。

また、外村が調律に失敗したときに由仁がかけた、「やろうとしていること、すごくよくわかったんです。」という言葉や、落ち込んでいる外村に対して板鳥が「きっとここから始まるんです。お祝いしてもいいでしょう。」といってチューニングハンマーを渡すシーンが良かったです。
秋野がピアニストを諦めた理由について説明するシーンも良かったですね。

極めつけはラスト10ページにスパイスを入れていて、最後まで綺麗なままでは終わらせない作者の遊び心のようなものを感じました。
調律師という新たな生き方に触れられたころもあって、読了後が爽やかな気分になる素敵な作品でしたね。