中堅ゼネコンである一松組の現場で働いていた4年目・富島平太は突然業務課に異動となった。“談合課”と揶揄される業務課での仕事は大口の公共事業の受注。
S区役所の公共工事を落とせなかった一松組にとって、今度の地下鉄工事を取らないといよいよ経営が危なくなってくる。そのために出した切り札は新技術の導入によるコストダウンだった。技術を信じて、仲間を信じで入札に向かう一松組。そこにはゼネコン同士がタッグを組み、持ち回りで公共工事を落札する「談合」が立ちはだかる。会社の方針か、自分の信念か。平太が出した答えは・・・。
池井戸さんの作品で外れを読んだことがなく、この作品も他の作品と同様に面白かったです。特に「空飛ぶタイヤ」や「下町ロケット」は企業事情が多いのに対して、本著は会社から離れたプライベートの記載も多くあり、バランスが良くて650Pというボリュームの割には中だるみすることなく読むことができました。
一番印象的なのは平太が他社の役員に対して啖呵を切るところですね。
経験で圧倒的に相手の方が豊富なのですが、自分の譲れない部分については決して譲らない。少なくても僕が4年目の時はここまでのことは言えなかったです(苦笑)
また「サラリーマンは代わりのきく部品みたいなものですか?」という平太の問いに対して、山崎組顧問の三橋が答えた言葉がカッコいいですね。
「部品そのものさ。私だって部品だ。お前もな。だけど単なる部品じゃない。部品といえるのは仕事という目的に限っての話であって、同時に私たちは人間だ。サラリーマンである以上に人間なんだ。そこが大事だ、平太」
彼女の萌が平太に持った感情も良かったです。
(友達と食事だったと言えば、どんな友達なのかは、平太はきかない。平太にとって萌が友達だと言えば友達なのだ。きっと園田(萌の感情が揺れている相手)なら検索するだろうけど、平太は違う。すぐに人を信じて、そして疑わない、そんな単純で愚直な人だ。)
他にも先輩同僚の西田や課長の兼松。平太の父と母など、登場人物はとても多いのですがそれぞれがしっかり描かれているので、見失うことはありませんでした。
600P強なので少し躊躇しますが、それでもまた読みたい作品です。