数年ごとに大流行して多くの人命を奪う天然痘と、私財を投じて闘う福井藩の町医・笠原良策。異国から伝わった予防策を必死に伝えようとするも、天然痘の膿を体に植え込むその方法は中々理解を得られなかった。さらには藩医は町医である良策の声をかき消し、恐怖心からあらぬ誤解を持った庶民は良策に対して激しい憎悪を持つ。
天然痘に苦しむ人を助けたいと一心に願った町医の生涯。
ページ数は160P弱なので短い部類に入ると思いますが、読みごたえは十分にありました。
知らないものを叩き、役人が失敗を恐れるあまり物事が進まない、そして広がる未知の病気。今の時世にシンクロしていて一気に引き込まれましたね。
それでもなお、信念を貫き通す良策が凄くて、それ以外の言葉が出ないのが恥ずかしいです。
そして、とうとう藩から呼び出しがあり覚悟を妻に伝えた良策に対して、妻が言ったセリフがかっこいいですね。
「覚悟はしておりました。私は、信念をつらぬき通した夫の妻であることを誇らしく思います。後事はなにとぞお気にかけませぬように。」
ボリュームは少ないのに読み応えのある作品に初めて出逢ったような気がします。