どちらかと言えば、つぶあん派です。

はじめまして、よっさんと申します。1982年、広島県生まれ。「あひるの空」とゆずの「夏色」とチキン南蛮を愛する一児の父。瀬戸内を盛り上げるために日々奮闘するも、泳げないのがタマニキズです。

【息子とふうまん】

寒い日の夕方、駅で御座候のお店が目に付いたので陽介はお土産に回転焼を買って帰ることにした。何年経っても変わらない味というのはまさにこのことで、陽介は子供の頃からこの回転焼をよく口にしていた。

「ただいまー。」
「ととー、おかえりー。」

家に帰ると先に保育園から帰っていた息子が迎えに来てくれる。この笑顔を見るたびに一日の疲れも癒される。

「おかえりー。」
リビングに入ると妻の晴香が応えた。

「はい、お土産。」
「ん? 何? 出た!御座候! 自分が食べたいだけでしょ?」
「いやいや、そんなことないし。ちゃんと数買っとるし。」
「ととー、積み木しよう!」
「もうすぐごご飯だからね。」

晴香はそう言って、食卓に夕食のおかずを運び始めた。



夕食も終わり食器洗いや洗濯も終わった。そして一息付くために陽介は回転焼を食べることにした。買って帰ってから時間が経ったこともあり電子レンジで温めたので、回転焼は蒸気を上げている。寒い日にはとても絵になる光景だ。
猫舌の陽介はヤケドをしないように息を吹いて冷ましながら、回転焼を口にした。

懐かしい。やっぱりいつもの御座候の味だ。
そう思って食べていると、息子が寄ってきた。

「ととー、ひとつちょうだい!」

3歳になった息子は何でも大人が食べるものをねだる。以前に刺身に添えられているワサビをつまみ食いして、ぶるっと身震いしたこともあった。
陽介は食べていた回転焼を半分に分けて息子にあげた。息子もふーふーしながら美味しそうに食べている。
その光景を見ていると、ふいに袋に入っていたチラシに目がいった。買って帰った時は全然気づかなかったのに。それはキャンペーンのチラシだった。

『御座候思い出エッセイ』

そう書かれたチラシには、2020年に70周年を迎えた御座候が回転焼にまつわるエッセイを募集するものだった。大賞となるA賞に選ばれると、100名に10倍サイズの回転焼の形をしたぬくぬくBIGクッションが当たるらしい。

「へぇ、面白いじゃん。これ応募してみてよ。私これ欲しいし。」
「ん? へぇ確かに面白いね。400~800文字か。まぁ書けるか。案外当たるかもね。」
「なになにー。」


それから、陽介はどういう内容を書くか考え、実際に思い出エッセイを書き始めた。
案外あっさり書けるかなと思いきや、800文字以内となると案外ボリュームがない。800文字というと原稿用紙2枚分で、子供の頃は1枚の原稿用紙を作文で埋めるのも苦労していたにも関わらず、今回は文字数が足りないのだ。
文章を削りすぎず書きすぎずのバランスを考えながら、起承転結をまとめ上げなければならないが、御座候との思い出を語るのに800文字は少なすぎた。

それでも陽介は熟考に熟考を重ね、晴香と息子が寝ている間に800文字にまとめたエッセイを作り上げて投稿した。



翌日、家に帰った時に晴香に言った。

「あれ、御座候のやつ、応募しといたで。」
「へー、どんなやつ。見せて見せて。」
「ん? これ。」と言いながら、陽介はパソコンを開いてデスクトップに保存していたエッセイを晴香に見せた。


◇◆◇◆◇

タイトル:息子とふうまん

「ふうまん買ってきたけぇね。」
小学校から家に帰ると母はいいました。
僕の両親は二人とも和菓子が好きなので、買い物に行った帰りなどで御座候の回転焼をお土産に買って帰ることがよくありました。

そしてなぜか母は回転焼のことを「ふうまん」と言うのです。子どもの頃はそのネーミングを普通に受け入れていましたが、パソコンを使えるような年齢になった時に「なんじゃ、ふうまんって?」と思い、調べてみました。岡山県の方で回転焼を指す方言らしく、ふうふうと冷ましながら食べる饅頭だからとか、夫婦饅頭が由来だからとか諸説ありますが、とりあえず回転焼の事を指しているようです。

そんなふうまんは僕にとっても懐かしの味で、中学・高校・大学、そして社会人と成長してもその好みは変わることなく、今でもコンスタントに食べ続けています。基本的に甘いもの、特にあんこは好きなのですが、僕がどちらかと言えばつぶあん派なのも、もしかしたらふうまんの影響かもしれません。

おやつとしてふうまんを食べていた小学生の頃から三十年が経ち、今は妻と息子の三人で暮らしています。先日、息子のお遊戯会を見るために妻の両親が我が家に遊びに来ました。その時に、お土産でもらったのが御座候の回転焼。わしが甘党だというのを知った上でのチョイスとのこと。しかし、食べてみると不思議な懐かしさがありました。普段でも時々買うことがあるのに、今回だけ不思議な懐かしさを感じたのは、これを妻の両親にもらったからかもしれません。

それぞれの両親にもらった回転焼は、わしの中では未だにふうまんのままで、食べると子どもの頃の思い出がよみがえって来ました。と同時に思い出が実の息子とも重なりはじめ、自分も親になったんだなと実感しながら食べていると、息子が言いました。

「とと、ひとつちょうだい!」

両親からわしへ、わしから息子へ。御座候のふうまんは世代を超えてつながりそうです。


◇◆◇◆◇

「これさぁ、御座候じゃなくても回転焼ならどこでも良くない?」と晴香が笑いながら言った。



「御座候から何か届いとったよ。」と、家に帰った陽介に対して晴香が言ったのはエッセイを投稿してから2か月ほどが立った日だった。
そう言えばもう締め切り終わっていたなぁと思って封筒を見てみると、どう見てもクッションが入るようなサイズではない。

選ばれんかったかぁと思って封筒を開けてみると、中には「厳正なる抽選の結果、B賞に選ばれました」という通知とともに、特製のエコバックが入っていた。

「おおー、A賞にはならんかったけどB賞には選ばれたみたいじゃわ。」
「へぇ、凄いじゃん!」

確かにA賞に選ばれなかったのは残念だが、B賞でも御座候の特別グッズが貰えるのは嬉しい。

「ちなみに、B賞は何人くらいにもらえるの?」
「ちょっと待ってよ、B賞はと・・・」

陽介がパソコンで調べた。

「B賞はなんと・・・、7,000人が貰えるらしいわ。」
「結構多いね(笑)」
「70周年じゃけぇ、7,000人なんじゃろうね。ちなみに前回は・・・50周年の時の応募数が載っとるわ。50周年の時は・・・2,284名の応募でした(笑)」
「それ、みんな貰えるんじゃない(笑)?」
「・・・かもね。」


この日も御座候によって我が家は笑顔に包まれた。